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肥満化が進む中国
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COLUMN

 肥満化が進む中国

04/2021

2020年12月23日、中国国務院が

「国民栄養及び慢性病に関する報告」を発表しました。

この報告は現在の中国国民の健康と栄養状態を示しています。

2020年の報告は2015年から2019年までの中国全土で60万人以上を対象にした調査結果に基づいています。よって、現在の中国全体の健康状況を正しく示したものといえます。2015年の報告と比較することで、中国人の健康の変化も把握することができます。男女とも平均身長が高くなり、それに伴って体重も増加しています。中国人の体格が5年間の間に充実してきたことがわかります(図1)。

図1 18 ~44歳 男女 平均身長と体重

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「体格の充実に伴い現れる肥満問題」

肥満を計る国際基準にBMIがあります。日本でもメタボリックシンドロームの診断基準の一つとなっています。BMIによれば、中国の肥満率は18歳以上の肥満1度(BMI25~30)が34.3%、肥満2度(BMI30以上)が16.4%。つまり18歳以上の肥満の人の割合は体の50.7%になるというわけです。しかも由々しいことに、肥満率は調査のたびに上がっています(図2)。6~17歳の肥満率も既に19%に達していますので、今後も肥満が増え続けることが懸念されます。

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図2

「肥満に至る背景」

では、なぜ中国では国民の肥満化が進んでしまっているのでしょうか。日本も含めた他の国でも見られる理由として、経済発展の恩恵による飲食習慣の量と質の変化はもちろん中国でも考えられます。特に近年は油脂、肉の消費が顕著に増えて、逆に豆類の消費が減ってることが一因と捉えられます。

図3 国際連合 食糧農業機関のデータから


カロリー
 

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「肥満から生じるリスク=生活習慣病」

日本肥満学会では、日本人はBMIが25を超えたあたりから、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧といった合併症の発症頻度が高まることが示唆されています。図4は肥満と生活習慣病の関係図です。例えば、肥満から高脂血症になり、動脈硬化を引き起こし、やがては命を脅かす重篤な心臓病に至ります。

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図4

中国の肥満化は進んでいますので、生活習慣病の発症率も2015年から2020年にかけて高くなっています。高血圧25.2%→27.5%に、高コレステロール血症4.9%→8.2%糖尿病糖尿病が糖尿病とう9.7%→11.9%と増加しています。慢性閉塞性肺疾患も生活習慣病の一つですが、これも肥満と相関関係があり、9.9%→13.6%に増加しています。日本の肥満率27%、中国50%ですので、高血圧や高脂血症の発症率も中国では極めて高くなってしまっています。

中国の人口は2020年時点で14億3565万人(WHO World Health Statistics 2020)ですので、夥しい数の肥満人口が生じていることになります。肥満について分析を深め対策を講じることが、生活習慣病を回避し、健康な生活をもたらすことに繋がります。

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「広大な中国、肥満には地域差」

2019年10月に中国疾患予防センター慢性病研究室の研究チームがアナルズ・オブ・インターナル・メディシンに発表した研究データによると、一般型肥満*率の全国平均は14.0%となっています。表1からはこの結果が男女間で大きな差がないことがわかります。一方、地域別で見ると肥満率の平均値(表1)は明確な差があります。最も肥満率が高いのは北京を含む地域(天津市、河北省、山東省)です。特に北京の肥満率は男性26.6%、女性24.9%と全国平均の2倍近くに上ります。北京では4人に1人が肥満であることを指しています。反対例としては、中国の南部地域が挙げられます。男女とも4%程度に収まっている広東省、広西省、海南省があります。

 
図1の中国地図を見ると、大まかには肥満率は北の地域で高く、南の地域で低く見えます。中国北部は寒さが厳しい地域として知られています。一般的に、人間は気温が低い時には活動的でなくなったり、運動量が減ったりしますので、寒い地域では代謝が悪くなる可能性があります。一方、南の温かい地域では活動を阻害する要因がありませんので代謝が良い傾向があると見ています。

図1 中国 肥満率 地図

表1 中国 肥満率 内訳

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「中国の肥満はお腹ぽっこりの内臓脂肪型」

メタボリックシンドロームは国ごとに基準が違っています。中国も日本とは異なる基準を設けています。腹囲で見ると中国の場合は、男性90㎝以上、女性85㎝以上(日本では男性85cm以上、女性90cm以上)をメタボリックシンドローム(以下メタボと表記)としています。メタボに該当する中国人は全国平均で35%に上り、BMIの肥満率よりも深刻になっています。BMIと同様に地域別で見ると、男女とも一位は天津周辺(北京市、河北省、山西省)(図2)で男性が58%ほど、女性が50%程度と(表2)半数以上になっています。つまり、この地域の人は半分以上の人がお腹がぽっこりとして太って見えてしまうわけです。大まかに地域別を見ると、BMI同様に北部に肥満(メタボ)傾向が強いことがわかります。

図2 中国 メタボ率 地図

図2 中国 メタボ率 内訳

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「肥満化を進める要因を推察してみる」

本メルマガの第1回目で、中国は経済発展とともにカロリーの摂取量が増えてきたと述べました。(図3)のように男女ともに肥満率、メタボ率が平均を上回る11の省市と平均を下回る14の省市をそれぞれ人口当たりGDPを降順に並べて見ると、肥満率、メタボ率が上回るの省市のなかで北京市、天津市、山東省は平均GDPを越えているがそれ以外の省市は平均人口当たりGDPを下回っています。肥満率、メタボ率が平均を下回る省市では、上海市、浙江省、福建省、広東省が平均人口当たりGDPを大幅に超えていますが、それ以外の省市では平均人口当たりGDPを下回っています 。これから見ると肥満と経済発展とは相関がないと思います。また、北京市については、肥満率、メタボ率の背景に、単に経済成長著しいということだけでは説明できない首都ならではの要因もありそうです。北京市は現体制の中国において特別な都市ですので、そこに住む人たちにも潜在的な選民意識があります。そのため消費行動も過度になりがちな可能性があります。

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図3

 

一般に、肥満、メタボの直接的な原因は飲食習慣、生活習慣にあると言われています。このセオリーは中国にも当てはめることができます。では、北京市と広東省、上海市にはどんな習慣上の違いがあるのでしょう。さらに、大都市でなく、肥満率、メタボ率が高い地域は肥満化の原因として抱える問題点は何なのかを考えていきたいと思います。

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「地域差の原因」

2020年上海交通大学附属病院の研究チームが” Journal of Diabetes”に中国のネットの検索エンジン及びデリバリーサービスのデータから飲食習慣と生活習慣病の関係を示す論文を発表しました。この研究は2016年の検索エンジンとデリバリーサービスデータから2億1千3百万人を超えるサンプルをもとに計算したもので、多くは45歳以下の成人ですが、65歳以上も45万人は含まれていました。これらの情報をもとに、地域別の料理をカテゴリー分けして数値化しました。

「揚げ物好き、肉好き地域」

図1は揚げパン、唐揚げなど揚げ料理を好む地域です。北方地域で好まれていることがわかります。中でも北京市、天津市、河北省は中国国内で最も高い水準にあります。図2は焼き調理についてですが、中国では焼き料理は焼き肉や串焼き等、肉中心ですので、肉料理を好む地域と捉えて良いと思います。焼き料理(肉料理)も揚げ料理同様に、北京市、天津市、河北省で高い水準を示しています。これらの地域は肥満率、メタボ率が高い地域でもあります。揚げ物好き、肉好きの食生活と肥満、メタボの相関性が窺えます。

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図2 焼き調理の地域差

図1 揚げ調理の地域差

「甘味を好む地域」

糖質は生活習慣病で最も注意すべき成分と考えられています。糖質の過剰摂取から発生する糖尿病はサイレントキラーと呼ばれ、重篤な合併症を引き起こすと言われています。図3はスイーツなどの甘味を好む地域の分布です。南方の上海市等沿岸部の省市で高い水準にあることがわかります。甘味(=糖質)も肥満の原因と言われていますが、これらの省市の肥満率、メタボ率は低く抑えられています(第2回目のメルマガ参照) 。

表1は肥満率と生活習慣病の発症率を日中で比較したものです。これを見ると中国では、他の疾病に比べて糖尿病だけが低く、肥満率と傾向が一致しないように見えます。日本では、肥満、メタボを語る際に真っ先に取りざたされる糖尿病ですが、中国では高血圧や高脂血症の方が深刻な数字です。

図3 甘味を好む地域差

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表1

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「すべてが特別な北京市」

肥満率の高い省市のうち、北京市だけは甘食も高い水準になっていました。中国では元々、メンツを示すために、来客に対して多めの食事を提供する文化があります。2020年8月に習近平国家主席から発令された「光盤行動」(皿の上の食べ物をきれいに食べ尽くす)からも見てとれるかと思います。北京市は中華人民共和国の首都であり、中国人が誰もが住める都市ではありません。首都北京では、さらにメンツは高く、住民が特別に豊かであることを示すために、贅を尽くす傾向がありました。そのため、すべての生活習慣病に対して最大のリスクを孕む都市になってしまったと推論しています。

「結論」

肥満の上昇による社会保障支出の増加は国家としても解決したいことです。中国軍は肥満問題解決のために2015年に「デブは昇進ダメ」規定を作りました。しかし、元々食べることが好きな中国人のこと、食生活に制約をつけることは長続きしそうにありません。食べることを減らす、止めるよりも、入れ替えたり、加えたりする方がしっくりきます。食事の中で特に脂質、肉類の摂取が問題ですから、摂ってしまった栄養素を解消する何かを加える、健康食品、サプリメント、運動等が適していると思います。そこには日本にある様々な製品、サービスのビジネス機会があると言えます。私の中国でのリサーチの経験では、北京の人は商品の付加価値を重視する、上海の人は付加価値のコスパを重視する、広州の人は商品に付加価値ではなく、機能性とコストを最低限にすることを重要視する印象があります。同じ商品を市場導入する際にも、都市間の差に着眼したマーケティングコミュニケーションが必要になると感じています。

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