COLUMN
中国マーケティングの考察
Dec. 2022
「中国の流通経路」
4Pのなかで、最初に販売チャネルを理解するのが、マーケティングの理解への近道だと筆者は思います。それは、販売チャネルは歴史的に積み上げられた構造である為、簡単に変化が起こる要素ではないからです。日本の販売チャネルに慣れてしまうと、日本以外の国での先入観があって現地独自の販売チャネル構造を受け入れにくくなるのが、よくあることであります。今回は中国の販売チャネルの紹介を通じて、海外でのセルスマーケティングを理解することにお役に立てると思います。
「中国の販売チャネルの変遷」
共産主義国家の為、民間販売よりも国の分配に頼ってきた、中国の販売チャネルも鄧小平の改革開放から、現代化を始めてきました。特に国営企業などに頼ってきた卸売は赤字が多くて、人身御供となりました。図1では現在の中国の販売チャネルに至るまでの段階を整理したものであります。
1980年代~2010年代までの販売チャネルの推移
図1
「中国の主な販売チャネル」
改革開放以降、中国の流通チャネルは国の統一分配から民間販売にシフトし、流通経路自体は発展してきましたが、都市部と農村部の格差は広がるばかりです。取り残された地方、特に農村部では未だに代理を介した卸売から小売への古い流れが続いており、一方、都市部では日本のようにGMSが統括する販売チャネルが確立されております。更にこの10年間で激しい成長を見せた中国のECチャネル(図3)ですが、おそらく中国の販売チャネルが、特に地方では複層的になっていることによる地域小売価格差がECをより普及させた一因だと考えられます。チャネル階層が少ないほどより安くなるのは鉄則です。中国では同じ商品でも農村部のほうが高いのが現状なのです。
図2
図3
「中国を流通経路の発展を阻むもの」
中国の貧富の格差は拡大し続け、固定化の傾向が顕著です。中国には平均月収が1000元(約1万8000円)前後の中低所得かそれ以下の人々が6億人のいると、李克強首相は2020年の全国人民代表大会閉幕後の会見で指摘していました。所得が低い人はほとんど地方在住であります。中国全土における販売チャネルの現代化はまだ先になるのではと考えられます。更に2022年中国共産党第20回党大会を経て、民営から国営へのシフトチェンジする恐れがありますので、ますますは目を離せません。
「WAHAHA チャネル」
中国の改革開放で、卸売業の民営化が進む初期(1980年代)には個人事業主のような小規模卸業者が多く存在しました。小規模の業者が多かった結果、メーカーは人気商品を持っていても売掛金の回収が出来ない事態がよくあることでした。そのような状況を改善する為に、当時人気商品を輩出していたWAHAHAは図1のような独自チャネルを構築することにしました。
WAHAHAは自社選定した特約1級卸売業者としか契約を結ばないので、チャネルの管理を簡略化出来ます。簡略化の効果として、営業人員を削減でき、卸売業者と二人三脚で発展に取り組むことができ、結果として、中国国内に自社製品を広く浸透させることができることになります。また、WAHAHAと特約1級卸売業者との契約では、特約業者は前金で10%の保証金を預けることになっています。この独自の制度により、WAHAHAのキャッシュフローが楽になることは間違いありません。
図1
WAHAHAのチャネル
「コカ・コーラのチャネル」
一方、コカ・コーラは直販、卸売、ボトラーの3つからなる流通ネットワークを構築しました。直販チャネルは都市部マーケットを中心にメーカー直轄で展開、ボトラーは日本でも耳にしたことがあると思いますが、各地にある既存の事業者による販売展開です。
2001年に設立された101販売網は地方都市、特に镇、日本で言うところの町以下にあたる小さな地域での販売を強化するための組織で、卸売商と契約して末端の小売店に対して冷蔵庫や展示棚などのハード設備や商品知識などのソフト・サービスを提供します。101販売網は物流と売掛金の回収を行いますが、小売先の開拓や販売活動には携わりません。コカ・コーラのチャネルの特徴としては、階層型のWAHAHAと比べると流通構造が短く、メーカーが小売のコントロールをしやすい構造になっていると言えます。
図2
「WAHAHAとコカ・コーラの違い」
消費者までのルートはコカ・コーラの方が短いので、小売のコントロールがしやすくなっていることがまず言えると思います。WAHAHAの場合は小売に届くまでの流通機構が何段階もの階層になっているので、コントロールが分散されてしまいます。例えば、新商品販売において、コカ・コーラは新商品が人気がでるまで小売店の棚に置き続けてもらえますが、WAHAHAはチャネル構造上、卸売業者の収益性に左右されます。新商品を待つよりも現在の人気商品を売り続ける方が良いと卸売業者が判断すれば、新商品は流通されにくくなります。現実にはその結果として、WAHAHAはメーカーとして新商品を軌道に乗せることが難しく、新商品開発力が脆弱になり、新しい主力商品が生まれなくなってしまいました。
今回は、WAHAHAとコカ・コーラの流通チャネルについて説明しました。コカ・コーラの流通チャネルはグローバル展開している企業として、日本での展開と同じ部分が多いと思いますが、中国国内で独自に構築した101販売網があることがわかりました。また、国内企業WAHAHAは多層的な販売構造であること、特約卸売業者との契約には保証金等の独特な内容が含まれていることがわかりました。
担当編集:崔 学龍